ダークモードは本当に電池を節約するのか
それだけで電池が長持ちする。そんな話を聞いたことがある人は多いだろう。実際、Androidの設定にはダークテーマが用意され、多くのアプリも同じ表示に対応している。電池残量が心細くなったとき、とりあえずダークモードを選ぶ人もいる。
しかし、画面を黒くしただけで、本当に消費電力は減るのだろうか。
黒い壁紙にしても、スマートフォンの中では通信、位置情報、動画再生、ゲームなどが動いている。画面の種類によっては、黒を表示している間も光源が点灯している。
ダークモードの節電効果は、あるか、ないかの二択ではない。端末が有機ELなのか液晶なのか、画面をどのくらい明るくしているのか、何を表示しているのかで大きく変わる。
ダークモードは節電専用の機能ではない
ダークモードは、画面全体の配色を暗くする表示設定だ。通常は白い背景を黒や濃いグレーへ変え、文字を白や明るい色にする。OSのメニューだけでなく、対応するアプリやウェブサイトにも設定が反映される場合がある。
GoogleはAndroidのダークテーマについて、画面技術によっては消費電力を大きく減らせることに加え、弱視や明るい光に敏感な利用者の視認性を改善し、暗い場所で端末を使いやすくする利点を挙げている。
参考:Android Developers「Implement dark theme」
https://developer.android.com/develop/ui/views/theming/darktheme
つまり、ダークモードの目的は電池だけではない。夜間に白い画面のまぶしさを抑えたい、見た目を落ち着かせたい、アプリの配色を統一したいという理由でも使われる。
ただし、節電の話に限れば、最初に確認すべきことがある。それは、スマートフォンの画面が有機ELなのか液晶なのかという違いだ。
有機ELは画素そのものが光る
現在の高価格帯スマートフォンを中心に広く使われている有機ELは、画素がそれぞれ発光する自発光方式のディスプレイだ。英語ではOLEDと呼ばれ、AMOLEDも有機ELの一種である。
白い画面を表示するときは、多数の画素を明るく発光させる必要がある。赤や青、グレーなどを表示するときも、必要な色と明るさに応じて画素が光る。一方、完全な黒を表示する画素は発光を止められる。
Samsung Displayは、有機ELでは暗い画素を暗くし、黒い画素は完全に消灯すると説明している。有機ELが黒を深く表示できるのも、背後から照らす光を遮って黒く見せるのではなく、該当する画素自体が光らないためだ。
参考:Samsung Display「OLED」
https://oledera.samsungdisplay.com/eng/oled/
発光しない画素は、明るく光る画素より表示に使う電力が少ない。白い背景の多いライトモードから、黒や濃いグレーの面積が大きいダークモードへ変えれば、ディスプレイの消費電力を抑えられる可能性がある。
「ダークモードは電池を節約する」という話は、主にこの有機ELの仕組みに基づいている。
液晶は黒い画面でもバックライトが光っている
液晶ディスプレイは仕組みが違う。一般的な液晶は画素そのものが光るのではなく、画面の背後にあるバックライトを光源として使う。液晶とカラーフィルターで光の通し方を調整し、色や明るさを表現する。
黒を表示するときも、基本的には点灯しているバックライトの光を液晶側で遮っている。画面に黒い部分が増えたからといって、有機ELのように、その画素の光源を一つずつ消せるわけではない。
Samsung Displayの解説でも、液晶は自ら発光できないため外部光源であるバックライトが必要であり、液晶が光を遮ると黒、通すと白を表示すると説明されている。
参考:Samsung Display「Back Light Unit」
https://global.samsungdisplay.com/31407
そのため、一般的な液晶スマートフォンでは、ダークモードへ切り替えても、有機ELほど明確な節電効果は期待しにくい。白い設定画面を黒くしても、バックライトが同じ明るさで点灯していれば、表示部分の電力は大きく変わらないからだ。
もちろん、液晶でも画面全体や部分ごとにバックライトを制御する技術はある。テレビや一部の端末では、暗い領域に合わせて光源を弱めるローカルディミングも使われる。しかし、一般的なスマートフォンの液晶すべてが、ダークモードの黒い部分だけを細かく消灯できるわけではない。
液晶端末で電池を長持ちさせたいなら、配色を黒くすることより、画面輝度を下げる、画面が消えるまでの時間を短くする、といった方法のほうが効果を得やすい。
有機ELなら必ず大幅に長持ちするのか
有機ELではダークモードが節電につながる。それなら、電池持ちが目に見えて何時間も延びるのだろうか。
ここで注意したいのは、「画面が使う電力」と「スマートフォン全体が使う電力」は同じではないことだ。
スマートフォンでは、ディスプレイ以外にもCPU、GPU、モバイル通信、Wi-Fi、GPS、カメラ、スピーカーなどが電力を使う。ダークモードによって画面の消費電力が減っても、ゲームの計算量や動画通信のデータ量まで自動的に減るわけではない。
たとえば、表示部分の電力を20%削減できたとしても、スマートフォン全体の消費電力が20%減るとは限らない。重いゲーム中なら、CPUやGPUの消費が大きく、画面配色の差が全体に占める割合は小さくなることもある。
ダークモードの効果を語るときは、「有機EL画面の表示電力が何%減ったのか」と「端末全体の消費電力が何%減ったのか」を区別する必要がある。
普段の明るさでは差が小さいこともある
米パデュー大学の研究チームは、有機ELを搭載した複数のAndroidスマートフォンと、Googleマップ、Googleニュース、YouTubeなど6つのアプリを使い、ライトモードとダークモードの消費電力を調べた。
屋内で自動輝度を使うような一般的な条件では、ダークモードへ切り替えたことによる端末全体の節電効果は、平均で3%から9%だったとしている。一方、屋外で画面輝度が非常に高くなる条件では、39%から47%に達する場合があった。
参考:Purdue University「Shedding light on dark mode to save energy」
https://engineering.purdue.edu/ECE/News/2022/shedding-light-on-dark-mode-to-save-energy
この数字は、「ダークモードはほとんど無意味」という意味でも、「必ず電池が約半分節約できる」という意味でもない。画面輝度によって結果が大きく変わることを示している。
画面を低い輝度で使っていると、ライトモードでも有機ELの発光はそれほど強くない。そこから背景を暗くしても、削減できる電力の絶対量は小さい。
反対に、明るい屋外で画面を高輝度にすると、白い画素を表示するために多くの電力が必要になる。その状態で大部分を黒や濃い色へ変えれば、削減できる電力も大きくなる。
同じ端末、同じアプリ、同じダークモードでも、昼の屋外と夜の室内では効果が違うのである。
黒と濃いグレーは同じではない
ダークモードと聞くと、背景が完全な黒になると思うかもしれない。しかし、実際のアプリでは、真っ黒ではなく濃いグレーが使われることも多い。
完全な黒を表示する有機EL画素は消灯できる。一方、濃いグレーはわずかに発光する必要がある。理屈の上では、純粋な黒のほうが消費電力を抑えやすい。
それでも、濃いグレーのダークテーマが節電にならないわけではない。明るい白より弱い発光で表示できるため、ライトモードより電力を減らせる可能性がある。純黒と濃いグレーの差だけを過度に気にするより、白い面積を大きく減らすことのほうが重要になる場合も多い。
濃いグレーが使われるのには、デザイン上の理由もある。真っ黒な背景では、カードやメニューの階層を影で表現しにくい。白い文字とのコントラストが強すぎて読みづらいと感じる人もいる。少し明るさの異なるグレーを重ねることで、画面の奥行きや情報の区切りを示しやすくなる。
Appleの開発者向け資料も、暗い表示ではグレー地に明るい文字を使う設計がある一方、コントラストを下げた表示が弱視などの利用者には読みづらくなる可能性を説明している。
参考:Apple Developer「Dark Interface evaluation criteria」
https://developer.apple.com/help/app-store-connect/manage-app-accessibility/dark-interface-evaluation-criteria
ダークモードは、黒ければ黒いほど無条件に優れているわけではない。節電、読みやすさ、見た目の階層を両立させるため、濃いグレーが選ばれるのである。
写真や動画が多ければ差は小さくなる
ダークモードが変更するのは、主にアプリの背景、メニュー、文字、ボタンなどのユーザーインターフェースだ。表示するコンテンツそのものまで暗くなるとは限らない。
SNSのタイムラインをダークモードにしても、投稿された写真や広告は元の明るさで表示される。動画アプリの周囲が黒くなっても、再生している映像は変わらない。地図、ゲーム、電子書籍なども、アプリによって暗くなる範囲が異なる。
画面の大部分を白い設定画面や文章が占めるなら、ライトモードとダークモードの差は出やすい。反対に、全画面の動画やゲームを長時間表示するなら、メニュー部分の配色を変えても影響は限られる。
「ダークモードをオンにしたか」だけでなく、実際に画面の何割が暗い色へ変わったのかが重要だ。
自動輝度との組み合わせで考える
ダークモードより簡単で、画面方式を問わず効果を期待しやすいのが、画面輝度を下げることだ。画面を明るく表示するには、その分だけ電力が必要になる。
パデュー大学の研究では、有機ELの輝度設定を100%から50%へ下げた場合、表示内容がライトテーマかダークテーマかにかかわらず、ディスプレイの消費電力が大きく低下したと報告されている。
参考:Purdue University「Shedding light on dark mode to save energy」
https://engineering.purdue.edu/ECE/News/2022/shedding-light-on-dark-mode-to-save-energy
ただし、電池のために画面を読めないほど暗くしては意味がない。実用上は自動輝度を利用し、必要以上に明るくなっていると感じたときだけ少し下げるのが現実的だ。
有機EL端末なら、そこへダークモードを組み合わせる。液晶端末なら、ダークモードそのものより輝度調整を優先する。このように考えると分かりやすい。
常時表示ディスプレイでは暗い表示が生きる
有機ELを搭載したスマートフォンには、画面をロックしても時計や通知を表示する常時表示ディスプレイがある。
この機能では、画面の大部分を黒くし、必要な画素だけを低い輝度で発光させる。有機ELの画素単位で発光を制御できる特徴と相性がよい。表示の更新頻度を下げる仕組みなども併用し、消費電力を抑えている。
ただし、黒い部分の画素が発光しなくても、常時表示を動かす回路や明るい部分の電力は必要になる。常時表示をオフにした状態と同じ消費電力になるわけではない。
ダークモードと同様に、「暗いから電力がゼロ」ではなく、「明るい画面を表示し続けるより抑えやすい」と考えるべきだ。
パソコンでも考え方は同じ
ノートパソコンでも、ダークモードの節電効果はディスプレイ方式に左右される。
一般的な液晶ノートでは、黒いウインドウを表示してもバックライトは必要だ。OSやブラウザをダークモードにしただけで、電池持ちが大幅に延びるとは考えにくい。画面輝度を下げたほうが効果は分かりやすい。
一方、有機ELディスプレイを搭載したノートパソコンでは、スマートフォンと同じように、暗い画素の多い表示が節電につながる可能性がある。ただし、パソコンではCPUの高負荷処理、外部機器、キーボードのバックライトなども電力を使うため、端末全体への効果は使い方によって変わる。
黒いデスクトップ壁紙を設定しただけで、ブラウザや文書作成ソフトを白背景のまま最大化していれば、壁紙が見える時間は短い。節電を期待するなら、実際に長時間使うアプリまでダーク表示へ対応している必要がある。
電池のためだけに使うべきか
ダークモードは、有機EL端末なら電池の節約に役立つ。特に、高い画面輝度で、白い背景の多いアプリを長時間使う場面では効果が大きくなりやすい。
一方、液晶端末では効果が限定的である。さらに有機ELでも、低い画面輝度で使っているとき、写真や動画が画面の大部分を占めるとき、CPUや通信の消費が大きいときには、端末全体で見た差が小さくなる。
電池持ちを改善したいなら、ダークモードだけに頼るより、画面輝度、画面消灯までの時間、電波状況、バックグラウンド通信、位置情報、ゲームの画質設定なども見直したほうがよい。
ダークモードには、設定を一度変えるだけで使い続けられる手軽さがある。画面が見づらくならず、デザインも好みなら、有機EL端末でオンにしておく価値は十分にある。
ダークモードは本当に電池を節約するのか
答えは、「有機ELでは節約できる。ただし、効果の大きさは条件による」となる。
有機ELは画素ごとに発光するため、黒や暗い色の面積が増えるほど表示電力を抑えやすい。液晶はバックライトを使うため、画面を黒くしただけでは同じ効果を得にくい。
そして、有機ELでも画面輝度が低ければ差は小さくなり、高輝度では差が大きくなりやすい。表示しているアプリが白い文章中心なのか、写真や動画中心なのかでも変わる。
ダークモードは、オンにすれば電池が劇的に長持ちする魔法のスイッチではない。それでも、有機ELの仕組みを生かした、理にかなった節電方法ではある。
大切なのは、「黒い画面だから節電」と一括りにしないことだ。まず自分の端末が有機ELか液晶かを知り、画面輝度と使い方まで含めて考える。ダークモードの本当の効果は、画面の色だけでなく、その画面がどう光っているかによって決まるのである。