スマホはいつの間に2億画素になったのか——それでも普段は1,250万画素で撮る理由
「このスマートフォンのカメラは2億画素です」と聞いて、すぐに実感できる人はどれくらいいるだろうか。
2億画素は英語表記で200MP。画像の大きさにすると、およそ1万6,000×1万2,000ピクセルになる。4Kテレビの画面が約830万画素なので、単純な画素数ではその二十倍を超える。
しかも、これは研究用の試作品ではない。SamsungのGalaxy UltraシリーズやXiaomi 12T Proなど、実際に販売されたスマートフォンに搭載されている。
一方、一般的なデジタル一眼カメラやミラーレスカメラには、2,000万から数千万画素程度の機種も多い。数字だけを比べると、ポケットに入るスマートフォンの方が、本格的なカメラよりはるかに高性能であるように見える。
ところが、2億画素のスマートフォンで普段撮影される写真は、約1,250万画素であることが多い。
せっかく2億個も画素があるのに、なぜ16分の1まで減らしてしまうのか。そもそも、最初から1,250万画素のセンサーを使えばよいのではないか。
この一見矛盾した仕様に、現在のスマートフォンカメラの考え方が表れている。
2億画素は、毎回2億画素の写真を保存するためだけにあるのではない。明るさ、ズーム、トリミング、動画、画像処理などへ、その場に応じて画素を振り分けるための材料なのである。
本当に2億画素のスマホは存在する
スマートフォン向け2億画素センサーの歴史は、意外に新しい。
Samsungは2021年9月、モバイル向けとして業界初をうたう2億画素イメージセンサー「ISOCELL HP1」を発表した。0.64マイクロメートルという小さな画素を約2億個並べ、明るさに応じて画素の使い方を変える仕組みを備えていた。
翌2022年には、MotorolaやXiaomiなどから2億画素カメラを搭載したスマートフォンが登場する。Xiaomi 12T Proは日本でも発売され、2億画素モードに加えて、高解像度画像から複数の構図を切り出す機能を搭載した。
2023年にはSamsung自身がGalaxy S23 Ultraへ2億画素のISOCELL HP2を採用。その後のUltraシリーズでも2億画素カメラが続いた。
現在では、2億画素は一度限りの珍しい機能ではない。高価格帯だけでなく、より手頃な価格帯のスマートフォンにも採用例が広がっている。
私たちが気づかないうちに、スマートフォンの画素数競争は1億画素を超え、2億画素へ到達していたのである。
そもそも「画素」とは何か
カメラのイメージセンサーは、レンズが結んだ光を電気信号へ変換する部品だ。その表面には、光を受ける小さな区画が並んでいる。一般に、この区画を画素として数える。
画素数が多ければ、一枚の画像をより細かな格子に分けて記録できる。十分な光と性能のよいレンズがあれば、遠くの文字、建物の模様、髪の毛などを細かく残せる可能性が高くなる。
撮影後に画像の一部を切り取っても、残る画素数が多い。2億画素の画像を縦横それぞれ半分の範囲に切り出した場合でも、計算上は約5,000万画素が残る。
これだけを見ると、画素は多いほどよいように思える。
しかし、画素数はカメラの画質を表す総合点ではない。
同じ面積のセンサーへ多くの画素を並べれば、一画素あたりの面積は小さくなる。小さなバケツを大量に並べるようなもので、それぞれが一度に受け取れる光の量には限りがある。
光が十分な昼間なら細かい画素を生かしやすいが、暗い場所では受け取れる光が少なくなり、信号に対してノイズが目立ちやすい。
ここに、高画素化の根本的な矛盾がある。
細部を記録するため画素を小さくしたい。しかし、暗所できれいに写すには一画素を大きくして、より多くの光を受けたい。2億画素センサーは、この二つを状況に応じて切り替えることで両立しようとしている。
16画素を一つにするピクセルビニング
2億画素スマートフォンが普段は約1,250万画素で撮影する理由が、ピクセルビニングである。
ピクセルビニングとは、隣り合う複数の画素をまとめ、一つの大きな画素のように扱う技術だ。
SamsungのISOCELL HP1やHP2では、暗い場所などで縦4個、横4個、合計16画素を一つにまとめられる。
2億を16で割ると1,250万になる。
そのため、センサー上には約2億個の画素があっても、出力される写真は約1,250万画素になる。HP2の場合、一つ0.6マイクロメートルの画素を16個まとめ、2.4マイクロメートル相当の単位として動作させる。
これは、撮影後に2億画素の画像を単純に縮小することとは少し違う。センサーから信号を読み出す段階で、周囲の画素を一つのまとまりとして利用し、暗所での感度やノイズを改善することが目的だ。
状況によっては、4画素を一つにして5,000万画素として使うこともできる。明るい場所では2億画素、条件や目的に応じて5,000万画素、暗ければ1,250万画素というように、同じセンサーが複数の性格を持つ。
高画素センサーは、常に最大解像度で撮る固定的な部品ではない。画素の集団を組み替えられる、柔軟な撮影装置なのである。
なぜ最初から1,250万画素にしないのか
暗い場所で16画素を一つにするなら、最初から大きな画素を1,250万個だけ並べた方がよいようにも思える。
実際、同じセンサー面積で暗所性能だけを優先するなら、大きな画素を使う設計には利点がある。画素をまとめれば、あらゆる点で本物の大型画素と完全に同じになるわけでもない。
それでも2億画素にする理由は、明るい場所やズーム時に選択肢を増やせるからだ。
昼間の屋外など十分な光がある状況では、細かな画素を個別に使い、高解像度の画像を作れる。風景や建築物を撮り、後から一部を拡大したい場合に有利になる。
また、センサーの中央部分だけを読み出せば、レンズを動かさずに画角を狭くできる。通常のデジタルズームは完成した画像を拡大するため細部が失われるが、高画素センサーには切り出し後も一定の画素数を残せる余裕がある。
たとえば2億画素の中央から1,250万画素分を切り出すなら、画角を大きく狭めても出力解像度を維持できる。実際の画質はレンズや処理にも左右されるが、望遠カメラを補う「センサー内ズーム」の材料になる。
一つのセンサーを、高解像度撮影、通常撮影、暗所撮影、クロップズームへ使い分けられる。それが、最初から1,250万画素にしない理由である。
2億画素なら一眼カメラより高画質なのか
答えは、単純には「いいえ」である。
スマートフォンの画素数が一眼カメラより多くても、それだけで画質が上回るとは限らない。
大きな違いの一つが、センサーの面積だ。SamsungのISOCELL HP2は1/1.3型と呼ばれるサイズで、スマートフォン用としては大型だが、一般的なミラーレスカメラのAPS-Cやフルサイズセンサーより小さい。
大きなセンサーは、同じ画素数なら一画素を大きくしやすく、全体として多くの光を受け取れる。暗所、階調、背景のぼけ、動く被写体などで有利になりやすい。
レンズにも差がある。
センサーが2億個の区画を持っていても、レンズがそれほど細かな像を結べなければ、記録されるのはぼやけた情報である。スマートフォンの薄い本体に収まる小型レンズには、寸法上の制約がある。
手ぶれや被写体ぶれの影響も大きい。細部を記録できる高解像度モードほど、わずかな動きが目立ちやすい。暗所では露光時間が延びるため、2億画素を生かす条件はさらに厳しくなる。
そして現代のカメラでは、センサーから出た信号をどう処理するかも画質を左右する。HDR合成、ノイズ除去、輪郭強調、色調整、複数枚合成など、スマートフォンは大量の計算を使って写真を仕上げる。
画質は、画素数、センサー面積、レンズ、手ぶれ補正、画像処理、撮影条件の組み合わせで決まる。2億画素という一つの数字だけでは判断できない。
2億画素モードはいつ使うのか
2億画素で撮る価値が出やすいのは、十分に明るく、被写体とカメラがあまり動かない場面だ。
晴れた日の風景、建物、静物、細部を後から切り出したい写真などが向いている。大きく印刷する場合や、撮影後に構図を変更する場合にも余裕が生まれる。
一方、夜景、室内、動く子どもやペット、すぐに撮りたいスナップでは、通常の1,250万画素モードが適していることが多い。
高解像度モードでは、一枚のファイルが大きくなり、記録や処理に時間がかかる。連写性能やHDRなど、一部の処理が制限される場合もある。撮影した写真をSNSへ投稿したり、スマートフォンの画面で見たりするだけなら、2億画素のまま保存する必要性は小さい。
4Kディスプレイでさえ表示できるのは約830万画素だ。1,250万画素の写真でも、画面で見るには十分な解像度がある。
通常モードが1,250万画素なのは、2億画素を無駄にしているからではない。画質、処理速度、ファイル容量、暗所性能のバランスがよいからである。
2億画素はズームのためにある
スマートフォンでは、本体の厚さがカメラ設計を制限する。
一般的なカメラのズームレンズのように、複数のレンズを前後へ大きく動かす機構を入れにくい。そのため、広角、超広角、望遠という複数のカメラを並べ、ソフトウェアで切り替えている。
しかし、各カメラの間にある倍率は、光学的には連続していない。そこで高画素センサーの中央を切り出し、画質を保ちながら中間倍率を作る手法が使われる。
2億画素は、写真一枚の大きさを誇るためだけではなく、撮影時に使える画角を増やすための余白でもある。
もちろん、切り出しは本物の望遠レンズと同じではない。焦点距離が変わるわけではなく、受け取る光の総量も減る。遠くの被写体を本格的に撮るなら、専用望遠カメラの方が有利な場合が多い。
それでも、十分な光がある場面では実用的だ。複数の固定焦点カメラしか持てないスマートフォンにとって、高画素はズームの隙間を埋める手段になる。
2億画素は画像処理の材料である
スマートフォンカメラは、シャッターボタンを押した瞬間の一枚だけをそのまま保存しているとは限らない。
露出の異なる複数の画像を撮影して合成し、明るい空と暗い人物を同時に表現する。連続した画像からノイズを減らし、手ぶれの少ない部分を選ぶ。被写体を認識して、顔、空、植物などを別々に調整する。
高画素センサーは、この計算写真へ多くの空間情報を渡せる。最終的な写真が1,250万画素でも、その途中で高解像度の情報を利用し、細部やズームを改善できる。
ここが、従来の「完成写真の画素数」と現在の「センサーの画素数」の違いだ。
2億画素は、利用者が最後に受け取る画像サイズであると同時に、スマートフォン内部の画像処理が使える素材の量でもある。
最終出力が1,250万画素だからといって、2億画素センサーが意味を失うわけではない。
メーカーが「2億」を競う理由
2億画素には技術的な用途がある。それと同時に、商品を売るための数字でもある。
カメラ性能の違いを広告で説明するのは難しい。センサー面積、レンズ性能、ノイズ処理、HDR、オートフォーカスを総合的に説明しても、一目では比較しにくい。
それに対して「2億画素」は分かりやすい。5,000万画素や1億800万画素より数字が大きく、前世代から進化した印象を作りやすい。
かつてデジタルカメラでも、画素数競争が続いた。画素数は性能の一要素にすぎないが、パッケージへ大きく書けるため、製品の違いを伝える指標として使われた。
スマートフォンの2億画素にも、同じ側面がある。
だからといって、すべてが見せかけというわけではない。ピクセルビニング、クロップズーム、高解像度撮影という実利はある。ただし「2億画素だから、このスマートフォンのカメラが最もきれい」と結論づけることはできない。
数字が示しているのはセンサーの一能力であり、完成写真の品質保証ではない。
スマホに2億画素は必要なのか
ほとんどの利用者は、2億画素の写真を毎日必要としていない。
家族や食事を撮り、スマートフォンで見返し、SNSで共有するなら、1,250万画素でも十分である。高解像度ファイルは容量が大きく、扱いにくい場合さえある。
それでも、2億画素センサーが無意味ということにはならない。
必要なのは、利用者ではなくスマートフォン側なのだ。
明るい場所では細部を記録し、暗い場所では16画素をまとめ、ズーム時には中央を切り出す。必要に応じて5,000万画素や1,250万画素へ姿を変え、画像処理へ多くの情報を渡す。
2億画素とは、常に最大解像度で撮るための数字ではない。撮影条件に合わせて使い方を選べる余裕の大きさである。
いつの間に2億画素になったのか
スマートフォンカメラは、一眼カメラと同じ方向だけを目指して進化してきたわけではない。
大きなセンサーや交換レンズを搭載できない代わりに、小さな本体の中へ多数の画素、複数のカメラ、高速なプロセッサーを詰め込み、ソフトウェアで組み合わせる道を選んだ。
2億画素は、その進化を象徴する数字である。
私たちが2億画素の巨大画像を必要としたから生まれたのではない。薄いスマートフォンで、昼も夜も、広角もズームも一台でこなすため、大量の画素を状況に応じて再編成する必要が生まれた。
だから2億画素スマートフォンは、普段1,250万画素で撮る。
16分の15を捨てているのではない。16個を一つの目的へ集めているのである。
スマートフォンの画素数を見るとき、本当に問うべきなのは「いくつあるか」だけではない。
その画素を、端末がいつ、どのように使うのか。
2億という途方もない数字の意味は、完成した写真の大きさではなく、その使い分けの中にある。